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駆け込み寺セミナー1(三上 大志、東北大学・M2):サバイバビリティの高いシステムの設計に関する一考察

 生物は,エサのような生存に不可欠な資源が限られたなかで,複雑な自然環境をたくましく生き延びることができる.本研究は,生物が有する優れたたくましさ(サバイバビリティ)のメカニズムに着想を得ることで,これまでにない高いサバイバビリティを実現する工学システムの設計論の構築を目指している.ここでは,モデルとして単細胞生物であるバクテリアの集合体(バイオフィルム)形成現象に着目している.バイオフィルム形成にまつわる様々な現象のなかでも,それが形成される際に拡大期と停滞期を交互に繰り返しながら広がっていく現象は,現象のメカニズムおよび現象とサバイバビリティとの関連が生物学研究によって明らかになっている数少ない現象のひとつである.本研究ではこれまでに,この現象の本質を捉えたシンプルな数理モデルを構築し,シミュレーション上で再現した.今後はこの数理モデルを,システムの設計論として昇華させたいと考えている.

 

駆け込み寺セミナー2(陰山 真矢、関西学院大学・博士研究員):ミツバチの巣に見られる平行性と数理モデル

 ミツバチの巣は,蜜ロウを主成分とした薄い平面状の巣板(コーム)が何層にも平行に重なり形成される.Belicら(1986)はこのようなコームの異方的構造の形成メカニズムを明らかにするために,ミツバチ個体間,そしてミツバチ・蜜ロウ間の相互作用を考慮した数理モデル(Skarka-Deneubourg-Belicモデル)を導入した.このモデルの大きな特徴は,巣を形成するミツバチを直交する2方向に区別することにより,コームの異方的構造を再現しようと試みている点である.本発表では,SDBモデルにおけるミツバチの増殖項をロジスティック型に書き換えた新たなモデルを提案し,その定数定常解の安定性と数値シミュレーション結果について紹介する.さらに,造巣方向の決定と異方性をもつコーム形成のメカニズムについて新たな気付きを得るために議論したい.

 

駆け込み寺セミナー3(岩崎 悟、大阪大学・D2):血管内皮細胞による網目状の構造形成に対する数理的研究

 体内で血管が網目状の構造を形成しているように,シャーレ上で培養された血管内皮細胞も時間とともに網目状の構造を形成することが実験でも観測されます.私(と共同研究者)は細胞の集団が網目状の構造を形成するメカニズムを数理モデルを用いて調べたいと思っています.今までにも細胞の集団の動きを表現するために様々な数理モデルが提案されています.講演では,今までに提案されているいくつかの数理モデルの紹介と,そもそも「網目状の構造」というものをどのように定性的・定量的に評価すればよいのかを議論したいと考えています.どのような着眼点で研究を進めていけば既存の研究との差異を明確化できるのか,といったことを本研究会での発表・議論を通して勉強したいと思っております.

 

駆け込み寺セミナー4(石井 宙志、北海道大学・M1):分化の波のモデルと球面上への拡張

 ショウジョウバエの視覚中枢において,神経上皮細胞から神経幹細胞への分化が波のように伝搬する現象が観察されている.2016年に佐藤らによって,この現象を記述する連続系と離散系を組み合わせた数理モデルが提案され,これまでの実験結果に対して再現度が高いことが報告された.また,離散部分が含まれる数理モデルは解析的に困難であることが多いため,現在では離散部分を合成積によって連続化した数理モデルが提案されている.
これまでの数理モデルは,技術的困難から平面上で考察されてきた.しかし,実際の視覚中枢は球面上に配置されると考えられることから,より現実的な数理モデルを構成するためには,球面上へと拡張する必要がある.本講演では,球面上における合成積を数値計算する方法について紹介し,球面上における分化の波の数値計算結果を示す.また,球面で考えることにより期待できる実験への示唆について議論したい.

 

駆け込み寺セミナー5(祐川 翼、北海道大学・M1):デルタ関数を用いた細胞極性モデルの数学解析

 真核細胞や細胞性粘菌などの特定の細胞では,外部からの何らかの刺激により,細胞内に一様に分布していた分子が移動し,濃度分布を局在化させる現象かがある.これを細胞極性といい細胞の機能発現の基盤となっている,この現象を数学的に記述するために細胞膜を円周と考え,質量保存則をもつ円周上の反応拡散系が提案されている. 桑村,李,栄(2018) では,円周上の単独パルス解を極性に見立てて,極性が外部刺激の最大点に移動することを数学的に示した.しかし,ここでは外部刺激を一つだけ置いており,刺激が二つ以上存在する場合については解析されていない. 本講演では,先行研究をふまえて,外部刺激としてデルタ関数を用いた際の極性の動きについての現在の研究を紹介する. デルタ関数を用いると,外部刺激が複数ある場合も解析が容易になる. また,本研究から化学走性によらない極性の移動の可能性について議論したい.

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